手から手へ届け合う価値観、TOUNのローカルとの関係性
#Craft
皆さん、こんにちは。TOUNのブランドデザインを行っている合同会社オフィスキャンプの坂本です。「TOUNらしさ」は、デザイン(設計や見た目)やクラフト(モノづくりの工夫や技術)という二つが担っている面が大きいのですが、もう一つ、ローカル(地域との関係性)という要素も、目に見えないTOUNの重要なアイデンティティだと思っています。
そこで今回はローカルという視点から、TOUNについてお話ししたいと思います。
文化が混ざり合って生まれたTOUN
モノづくりの拠点、大和郡山

最初にお伝えしたいのは、TOUNがつくられている奈良県大和郡山(やまとこおりやま)市 について。郡山藩の城下町として栄えたこの街は、大和国の中心地であったこともあり、さまざまな文化の交差点でもありました。
大和郡山を含む奈良県の西側地域では、雪駄やサンダル、靴下や革靴など、履物の製造が盛んです。農業のオフシーズンに行う仕事として草履や雪駄づくりがおこなわれたのが、履物文化の始まりといわれています。

1947年、この地に松本靴工業所として創業されたのが、現在TOUNの製造を行っているオリエンタルシューズ株式会社です。オリエンタルシューズは、70年にわたって靴づくりを行ってきた、革靴製造のプロフェッショナルです。
クリエイティブの拠点、東吉野
私たち合同会社オフィスキャンプは、奈良のクリエイティブファームとして2016年に創業しました。拠点をおいているのは、同じく奈良県の東吉野村という小さな村です。林業で栄えた東吉野村は1960年代から徐々に過疎化がはじまり、今ではピーク時の半分以下の人口となりました。
2015年、そんな東吉野村に国・県・村、そして私たちの4者が、クリエイターに向けたシェアオフィス/コワーキングスペースとして立ち上げたのがオフィスキャンプ東吉野です。オフィスキャンプを拠点にクリエイターたちが集い、外の仕事を持ちながら移り住んでもらうことによって、東吉野村の過疎を緩和していくことも、オフィスキャンプの大きな存在意義の一つです。
そして、オフィスキャンプ東吉野という場所で出会ったクリエイターたちとつくったのが、合同会社オフィスキャンプという組織です。異なるものをクリエイティブでつなぐことを目指し、なるべく越境性の高い事業を手がけています。
TOUNに関わる多様な人たち
ここで、TOUNが生まれた経緯を少し。
2018年、奈良を代表する企業、中川政七商店が主催する「経営とブランディング塾」という連続講座形式のセミナーがありました。そこに受講生としてオリエンタルシューズの松本さんと、私坂本が参加していたのです。その出会いがきっかけとなり、オリエンタルシューズさんからオフィスキャンプにブランディングをご依頼いただきました。ブランディングを進めていくなかで「奈良のスニーカーをつくる」というTOUN誕生のきっかけになった構想が生まれました。
左:オリエンタルシューズの松本さん 右:オフィスキャンプの坂本
これを実際にデザインする際に、お声がけしたのが、東京を中心に日本全国でグラフィックデザインを展開されているTAKAIYAMA.incの山野英之さんです。山野さんとは別の仕事でご一緒する機会があったのですが、お仕事のクオリティやお人柄、奈良出身であることなど、いくつかの要素が決め手となり、TOUNのプロダクトデザインをご依頼させていただきました。
デザイナーの山野さん
そんな多種多様なバックグラウンドを持つメンバーが集結して、出来上がったのがTOUNです。
オルタナティブな文化は地方にある
市場に求められるモノではなく、自分たちが求めるモノを
私たちがTOUNのブランディングを進めていく中で、大事にしていたことがあります。
それは、何事においてもまず「自分たちが本当に良いと思うモノになっているか?」ということです。モノを売っていくための一つの方法として、すでに売れているプロダクトに似せてつくるという方法がありますが、私たちはそういった考え方で製品をつくってはいません。
前例があった方が売れるかどうかの判断はしやすいですし、開発の失敗のリスクも少ないので、こういった方法は一見効率的に思えます。しかし、そのような製品が増えていくと、差別化できる部分は価格だけになり、売れるようにするためには値下げをするしかなくなってしまいます。
現代のモノを取り巻く市場において、広告やPR合戦は加熱する一方で、どんなに安くてもモノが売れなくなり、モノづくりの文化が続いていくということが難しくなっているように思います。
もう一度「自分たちで考えて、自分たちでつくって、自分たちがつかう」。そのような本来の「モノ」のありように近いモノを生み出したい。それがTOUNで実現したいことでした。
モノをつかうということは、文化をつむぐということ
TOUNを履くと、大和郡山のことやオリエンタルシューズで靴をつくっている皆さんのことが思い浮かびます。自分が暮らす奈良という場所で70年間革靴をつくり続けてきた、その歴史の証明としてTOUNは存在しているし、TOUNを履きつづけることはその歴史がこの先も続いていくということも意味します。
暮らしが豊かになるモノや必要なモノをその土地でつくり、そこで暮らす人が手に入れてつかう。豊かな暮らしから、またさらに豊かなモノが生まれる。そういう価値の連鎖が地方に芳醇な文化を育んできました。起点にあるのは、その土地の人が良いと思っていることをまっすぐにやっていくこと。そこから全ては始まります。そうすることで、その土地がよりその土地らしくなり、地域の文化が魅力的で多様になっていくのです。
いま、その土地固有の製造業や工芸と呼ばれる手工業が、どんどん無くなっています。変わりに市場に溢れているのは、グローバルな製造背景をもつ「モノ」たちです。その土地らしくあることが、文化をつくることとするなら、私たち固有の文化が失われているとも言えるかもしれません。
あなたが買った器やシャツ、スニーカーの先にどんな人がいるでしょうか。グローバル化が進む世の中だからこそ、改めて地域性を取り戻すことが必要な気がします。私たちはTOUNというプロダクトを通して、その土地らしく個性的で未来に続いていく文化を紡ぐということをやっていければと思っています。
届け合う価値観、そして未来へ
TOUN CARAVAN で、手から手へ
こうして誕生したTOUNを「どうやって届けるか」をみんなで話し合った結果、たどり着いた一つの答えが TOUN CARAVAN でした。キャラバンというのは日本全国をまわるポップアップイベントのツアーです。「私たちはこういうモノが良いと思っているのですが、いかがですか?」そんな気持ちで、全国各地の想いを共にできる皆さんのところへTOUNを届けています。
この活動は価値観の交換ともいえると思っていて、TOUNを届けるという一方通行ではなく、訪れた土地の人やモノ、街から私たちも大いに影響を受け、自分たちの価値観をアップデートさせてもらっています。
おじゃまする地域には、素敵な場があり、私たちが欲しくなるモノがあって、決まって面白い人たちがいる。そんな皆さんと食事をともにし、語り合い、最後には奈良にもどうぞお越しくださいと伝えて帰ってくるのです。
そうして繋がりあった地域のモノは、もう顔の見えないモノではありません。暮らしの中に、人の顔が思い浮かぶモノ取り入れられること、それも豊かさなのだと思います。
あえて小さな経済圏を
キャラバンで訪れた地域にあるのは、現代の主流であるグローバルな経済圏とは異なる、オルタナティブな経済圏です。一つひとつプロダクトは小さくても、それが繋がりを持ったときに、ユニークで大きな力になるのではないか。そんなことを感じています。
ひとつの産業が肥大化し、単体で大きくなるのではなく、小さな手工業が集まって集団のように見えること、それがオルタナティブな経済圏のありようだと思います。
その土地で、つくり手自身が本当にいいと思ってつくったモノを介した経済圏が、少しずつ大きくなっていくことが楽しみで仕方ありません。
TOUNというひとつのプロダクトからはじまった旅は、まだ入り口を過ぎたばかり。これから出会うことのできる皆さんと、一緒になって進んでいきたい。あなたの街へTOUNを届けられるその日を楽しみにしています。
今後の TOUN CARAVAN
2021年11月19日(金)〜21日(日)に開催される「奈良の足元、熊本の手元展」にTOUNも参加します。熊本で竹のお箸をつくるヤマチク主催で、奈良から履物ブランド、地元熊本から手仕事ブランドが一堂に会するイベントです。
【奈良の足元、熊本の手元展】
日時:2021年11月19日(金)〜21日(日)
場所:ヤマチク(熊本県玉名郡南関町久重330)
参加ブランド:ヤマチク/bridgekumamoto/HEP/TOUN/SOUKI/itiiti/IITO/kiitos/pinkindia/ヤマノテ/岱平窯/10yc
以降の TOUN CARAVAN の日程は、Newsページ にて順次お知らせしていく予定です。